書き続ける!住職の平常心日記

静岡県にある曹洞宗のお寺、正太寺の住職が物欲との戦いを公開します。

涅槃図のありがたさ

2月15日はお釈迦様が涅槃に入られた日。俗にいうと亡くなられた日。その日に向けて、多くのお寺で涅槃図の掲示が行われます。

正太寺も涅槃図があるので、今年はちょっと早め、昨日本堂に出しました。お参りの際には涅槃図にも近づいてお参りください。ぜひ。

その涅槃図には、こう書かれています。

「當山四世私金ニテ求ム」

つまり、第4代の住職が、自分のお金が買ったよ、という意味です。

今のように宗教法人というものと住職が別の人格として扱われていた時代ではないので、私金といっても住職の個人のお金なのか、お寺のお金なのか、定かではありません。元来僧侶は持ち物を持ちませんから、お寺に納められたお金を使ったんじゃないかなと考えているのですが、ただ、わざわざ「私金ニテ」と但し書きを入れたあたり、住職個人のお金もあったのかなという想像も働きます。

ここで注目すべきはそこではなくて、これが、第4代の住職が手に入れた、ということ。つまり、それ以前は、正太寺には涅槃図がなかった可能性が濃厚だということです。

今ではほとんどのお寺に涅槃図があるんじゃないでしょうか。

そのどの涅槃図も、住職がお金を工面して買い求めたり、お檀家さんから寄付を募って買い求めたり、もしかしたら絵を描ける人が描いてくれたということもあったでしょう。いろんな思いを受けて涅槃図がお寺に届き、そこからずっとずっと受け継がれてきているわけです。

正太寺の涅槃図も、第9代の住職の時代に表装をやり直し、さらに第17代住職の時にもまた表装をやり直し(18代だったかも。昨日見たばかりなのに、忘れちゃった)、大切に大切に受け継がれてきています。

私が第19代。正太寺は今までに2度、火災にあったと聞いています。その中でも守られて、今日まで受け継がれてきた涅槃図です。

お釈迦様が涅槃に入られて、それまでの人の身で直接導いてくださることがもう叶わなくなってしまった、その悲しみを表す涅槃図。それ自体も尊いものですが、長い時をこうして受け継がれてきたことにもまた、尊さが備わっていると思います。

皆さんのお寺の涅槃図がずいぶん古そうであれば、今日に至るまでにたくさんの物語を紡いできたという可能性にも思いを馳せてみてください。まだまだ新しいものであれば、これから未来へと受け継いでいく、その過程に自分も加わるんだと、そういう気持ちを持ってください。

放っておいて受け継がれていくものではありません。お寺にいる僧侶と、お檀家さんと、関わる人々、みんなで力を合わせて受け継いでいくものです。お寺に涅槃図があるというのは、それだけでありがたいことです。ぜひ、こうした気持ちを興してください。

また、もしも自分の菩提寺には涅槃図がないというのであれば、ご住職に、どうしたら涅槃図をお寺に入れられるか、声をかけてあげてください。みんなでお金を出し合えば、手に入れるのはそんなに難しいものではありません。もちろん、涅槃図以外にも、脈々と受け継がれていくものがお寺にはたくさんありますが、そうしたものもどのように受け継いでいくのが良いのかと考える契機にもなるでしょう。

皆さんの目に触れた涅槃図に秘められた物語。想像しながらお参りしていただけたら、私はとても嬉しいです。

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