書き続ける!住職の平常心日記

静岡県にある曹洞宗のお寺、正太寺の住職が物欲との戦いを公開します。

年々過酷になる8月盆

あまり外へ出歩いていないので私自身が見かけることはないのですが、ネット上では今年もお寺さん方がお盆のお経に駆け巡っておいでです。

暑い中ご苦労様です。

もちろん暑い日中、外でずっとお仕事をしている方もたくさんいるわけで、お寺さんだけを労うつもりはありませんが、実体験がある分だけ感情移入がしやすく、ネット上での活躍も他より目に留まるのは否めません。

痩せ我慢大会の一面も併せ持っているお盆行持。他の職種では、暑いときにも安全に仕事ができるように対策がとられていくことが当たり前だと思います。ブラックなお仕事だとそうでもないかもしれませんが・・・ああ、お寺業界はブラックな現場でした。これは間違いない。

曹洞宗においても改良衣という、古来からの法衣とは違う略式の法衣が使われるようになりました。明治の入り、政府が僧侶に平服を着ることを許可した際に、平服には抵抗のある僧侶のために開発が進んだという経緯があるようです。

近代の僧服改正・改良・改造論をめぐって(川口高風)

https://zenken.agu.ac.jp/research/26/08.pdf

禅研究所紀要 第26号(平成10年3月発行)掲載

zenken.agu.ac.jp

僧侶にとって最新の服というと、この改良衣です。明治初期に着られるようになった服が最新ですよ。それから生地や縫製の進化はあったでしょうが、基本的には同じものなのです。当然、昨今の酷暑に対応しているわけがない。

そもそも、正太寺ではお盆のお経を改良衣で読みますが、通常の袖の長い本来の法衣でお勤めするお寺さんも多いです。クーラーを効かせていただいてても、汗をかきます。汗っかきの和尚でしたら、外にいるのと変わらぬ汗をかくことでしょう。

普通であれば酷暑に対応した着物が登場してきて然るべしなのですが、法要の際に着ることができる服は厳密に決められているので、勝手なことはできません。決め事を変えられる立場の人たちが自分ごととして動いてくれなければどうしようもないのです。

クーラーの進化で意外になんとか勤め上げることができる状況もあるためか、酷暑に対応した法衣を開発し、正式な法衣として認可しよう、という動きにはなっていません。今は限界ギリギリまで頑張ってしまう僧侶が多数いる状態。限界を越えれば修復不可能なダメージを体に負うかもしれないのに、今この瞬間もその限界に挑んでいる僧侶がいるかもしれないわけです。

お盆の間に予定通りお経を読み進めなくてはならないとノルマがあるため、体調が優れないぐらいでは休養を取ることもできず、漫画やドラマで見るようなブラック企業のようなことをやっているんです。誰が決めるでもなく、宗教法人の代表役員である住職が、自分で決めて自分で実行しているのです。

代表役員なんだから、着るものぐらい自分で決められればいいのに、そういうわけにはいかないのがお寺特有の事情ですね。

正太寺がお盆を6月に移動したのはもう5年前。8月になれば相当暑くはありましたが、今ほどの酷暑ではなかったと思います。でも、自分の体調もさることながら、お施餓鬼に参列したり、お墓掃除をしたりと、炎天下に長時間晒される檀家さんの体調の方が心配でした。

自分が暑いのに弱い体になってしまっている分、他の人も同じように暑さでどうかなってしまわないかと心配でならないのです。

今もまだ、お盆というと8月という感覚は強く残っています。お参りに来る檀家さんも、まだまだ6月をお盆として体が感じるほどには馴染んでいないと思います。暑い中の8月のお盆を懐かしく思うこともあります。

それでも、ちょっとしたことで命懸けのお墓参りになりかねない8月のお盆を続けなかったことは、良い判断だったと思ってます。色々行持実施の工夫はあるでしょうが、酷暑からはどう足掻いても逃げられません。クーラーの効いた部屋から一歩でただけで眩暈がするほどの暑さなのです。お寺の考える工夫で凌げる状況は、すでに過去のものになったんじゃないかな。

この時期、お寺さんに会うたびに、6月のお盆は良いですよと声をかけてますが、なかなか本気にしてはもらえません。檀家さんが安心してお参りできることを最優先にしたら、お盆の時期をずらすというのは最適解だと思うのですが。地域によっては相当な反発が出ることもあるでしょう。正太寺だって、表立っての反発はありませんでしたが、表面化していないだけかもしれません。

それでも、安心して安全にお参りできることの方が、大事だと思うのです。正太寺の檀家さん発信で、6月のお盆も良いものだよという口コミがじんわりと広がって、周りのお寺さんの檀家さんからも、お盆の時期を変えようよという雰囲気が出来上がっていくと良いなぁと願っています。住職が一人で決めるには、大変なお寺さんの方が多いと思いますもの。私だってストレスで帯状疱疹になりましたしね。怖かったし。あのとき、「良いんじゃないか」と同意してくれた役員さんたちには、いまだに感謝の気持ちが薄れません。役員さんの同意があったという話は、今でも表には出していないんですけれどね。批判は自分のところで全部引き受けたかったので。でも、そろそろ良いかなぁ。内緒にしてると、感謝を伝えるのにも気を遣うので。

そして。私同じように、檀家さんも6月お盆で良かったなと思ってて欲しいなと、ずっと思ってます。一年中ずっと。

今年の8月お盆、日本中で誰も倒れることなく穏やかに過ぎていきますように・・・

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