書き続ける!住職の平常心日記

静岡県にある曹洞宗のお寺、正太寺の住職が物欲との戦いを公開します。

お墓参り

同安居の中で一番長く同じ寮舎で過ごした男の、お墓参りへ。山口県湯田温泉に、彼のお寺はあります。新幹線で新山口駅まで行き、在来線に乗り換えて特急なら10分弱、普通でも20分弱で湯田温泉駅に到着です。


今月19日が彼の命日。昨年は6月にお参りできましたが、今年は宗務所の出張も多く、6月には行けずじまい。7月がお盆月だとしたら行きづらいなと思っていて、今年は行けそうもないと半ば諦めていました。


しかし、6月の下旬になると彼のことばかりが頭に浮かびます。私の短い修行生活であっても、同安居には他にも親しい仲間はいます。でもやはり、一番身近で過ごしましたし、もう彼岸の彼方へ行ってしまっているというのが、ずるいんです。


そんなことを妻に話したときに、行っておいでよと後押しをしてくれました。7月の予定表を眺めながらどこかに隙間はないかと探したら、今日と明日ならなんとか行けそうだということになったのです。6月28日のことでした。


日帰りではさすがに日程が厳しいので、ホテルの予約を入れます。これはすぐに出来ます。あとは電車の切符。最寄り駅である鷲津駅の窓口で買っても良いのですが、安心して出発するためには行きの切符だけでも事前に手配したいところ。


昨日宗務所に出勤したついでに、宗務所でお付き合いのある旅行社の営業さんにお願いして、往復の乗車券、片道の新幹線の切符を手配してもらいました。帰りは時間が読めないので行き当たりばったりです。行きは、13時半頃伺いますとお寺さんに連絡してありますので、その時間に合わせて出発します。遅れられません。


そう、その電話の際にお盆月では無さそうな感触でしたので、安心して伺うことにしたのです。


朝、予定通りに出発し、電車の遅れもなく予定通りに湯田温泉駅に降り立ちました。ここからはタクシーです。歩くと40分ほどかかります。タクシーの運ちゃんと最近の空模様のことを話しているうちにお寺に到着。ちょうど彼のお母様が外にいらして、すぐにご挨拶できました。


中に上げていただき、改良衣から大衣にお袈裟という、正式な法衣に着替えます。昨年は仏壇の前で読経させていただきましたが、今年は本堂にお位牌を出しておきまたとありがたいお言葉をいただきましたので、本堂でお勤めをさせていただきました。


まずはご本尊様にご挨拶の法要。引き続いて、彼のための法要。1人だけのお勤めですけれどね。


前回はお経を読みながら思い出がわき上がってきて堪えきれないものがあったのですが、今年はなんとか平静を装えました。でも、そのあと1人でお墓参りをさせていただいたときには、もうしばらく留まっていたくなりました。それなのに不思議と、悪態しか出ないんですよ。変なものです。


辛いことがありました。新しい住職が決まったそうで、お母様は近々お寺を出られるそうです。娘さんと2人で住める借家が見つかったそうで、その点はホッとしたのですが、しかしこれからお墓参りに来ても、お母様と思い出話が出来ません。


今年は、お寺に咲く花や、在りし日の彼を写したアルバムを見ながらお話をして、たくさん印刷してあるからと、アルバムを一部いただいてしまいました。


お墓参りに来ると、そうして楽しい時間も過ごせるのですが、それも今年までとなってしまいます。来年もし来れても、初めてお目にかかる新住職にご挨拶もしなくてはならないでしょうし、今までよりも緊張が倍々です。


帰り道。タクシーを呼ぶのも面倒だったので、40分ほど歩いて駅まで向かうことにしたのですが、その道すがら、今度来たときにはお母様のお住まいを新しい御住職に伺って、訪ねてみようかとつらつらと考えていました。


たぶん、教えてもらえると思うんですけれど。


でも、お寺を離れて静かな生活をしているのに、お邪魔になりはしないかと、心配もあります。


駅までの間に、小学校がありました。ちょうど下校時刻に重なったようで、子どもたちと大勢すれ違いました。みんな、私の格好からすぐにお坊さんと分かると、すれ違いざまに挨拶してくれたり、どこに行くのか聞いてくれたり、すごく親しく接してくれます。


彼が健在であれば、この子達にも、彼の説く仏教に触れる機会があったのかもと思うと、残念でなりません。入出よりもはるかにたくさんの子どもたちがそこにはいたんです。たくさんの出会いがあったでしょうに。


突然の病ですから今さらどうこう言っても仕方ありませんが・・・


また来年も訪ねようと思います。時間はきっと作れるから。