書き続ける!住職の平常心日記

静岡県にある曹洞宗のお寺、正太寺の住職が物欲との戦いを公開します。

晋山式2日目

2日目です。住職が安下所からお寺まで進む道中を彩る稚児行列、現住職の退董式、そして新住職の晋山式、見識を近隣寺院並びにお檀家さんへ示す晋山上堂、御開山並びに歴代住職をご供養する御開山歴住諷経、お檀家さん各家のご先祖様をご供養する壇信徒総回向、そしてみんなで疲れを癒す食事へという流れです。


私は稚児係ですので、稚児行列に付き従いながら、写真撮影。思った以上に車通りが激しく気を遣いましたが、危険な場面もなくおよそ40分の行程を経て、一行は無事にお寺へ到着しました。お稚児さんは灌頭洒水という、頭へ仏血水を頂く儀式を受け、お守りを授かり、記念撮影です。その間、記念撮影までは新住職=宗務所長さんは休憩タイム。


記念撮影が一段落すると(小さなお子さんばかり、それも50名ほどと大勢なので、全員が静止する瞬間が無く、写真屋さんも大変そうでした。でもなにより、お子さん本人が慣れない衣装を着ての長い道中で、疲れたでしょうね)、退董式が始まります。現住職の引退式です。引退といっても、東堂と呼ばれる地位となり、住職多忙の時には成り代わってお年忌などもされることと思います。和尚は、死ぬまで現役なのです。


体は衰えても口は達者という所長さんの言の通りの、ジンとくる東堂さんの謝辞のあと、今度は新住職がお寺に入る、晋山式へと進められていきます。


山門で住職としての心意気を述べられ、その後、御本尊様をはじめ、お寺におまつりしている仏様方にご挨拶に回り、晋山式は終わります。これが一番大事な晋山式なのですが、この後の晋山上堂の方がメインですね。近隣寺院、随喜(法要のお手伝い)寺院などから、仏教の教えについての質問を受け、それについて答えるという問答が行われるのです。


これに似た儀式に法戦式があり、住職より任命された首座和尚が、修行を共にする仲間たちからの問に答えていきます。しかしまあ、昨今ではしっかりと台本がありまして。しかし晋山上堂での問答には台本はありません。事前に何を聞くかというのも打ち合わせは行われません。


それこそ、直前になって「お前も問答してこいよ」などと先輩に言われて急に参加することになったりします。内々では誰が出るかぐらいは決まっているのですが、たいていの場合、新住職には知らされません。


その日その場になって初めて誰が問答をしに来るかが分かり、何を聞かれるかもその瞬間が来なければ分かりません。それに対して即答しなくてはなりませんから、真の意味で住職の見識が試されるわけです。


問答に出てくるのは、若手の僧侶から、新住職よりも年上の大先輩まで様々です。最も緊張する瞬間です。私もいずれは正太寺の住職となり、この儀式を行うことになるはずですが、今から考えただけでお腹が痛くなるぐらい、緊張するものなのです。


須弥壇上の物をすべて撤去してそこに新住職上がり、1人ずつ、須弥壇上の新住職を目指してゆっくりと歩を進めながら、質問を投げかけます。納得する答えが得られたら、「吉祥吉祥、大吉祥」と大きな声で叫びながら来た道を戻り、次の門者にバトンタッチします。今日は10数名が門者となり、様々な問を投げかけていました。それに対して迷うことなく答えていく所長さん。さすがですよ。


この大一番が終わると、新住職は少し、気が楽になるのです。その後、食事も終えて、法要の後片付けをするのですが、途中ですべての参列者のお見送りを終えた所長さんが戻ってきました。片付けに残った面々と車座になって話している時のあの笑顔は、忘れられませんね。私はもう帰り支度をして今まさに帰ろうかという時だったのですが、写真係としての最後の仕事として、一枚パシャッとしてきました。


思わず撮りたくなる、そういう笑顔でした。私の腕じゃぁ、それを表現できるようには撮れないのですが、被写体ご自身が表現されているから、良いんじゃないかなぁ。


2日間でたくさんの写真を撮りました。700枚を超えたんじゃないでしょうか。整理が大変です。後のことを考えずにとにかく撮りました。失敗写真を含めてそのままお渡ししようかなと考えていたのですが、やっぱりそれなりに整理は必要ですよね。寝る時間、削らねばならなさそうです。